幻想郷の外れに、一軒の店がある。

外界のものを扱う古物商。　香霖堂。

店主の森近霖之助は人でありながら、幻想郷に生きている。

年齢は不明だが、その外見以上に生きていることは確かだ。

見た物の使用法と名前がわかる能力を有する。

時間はレミリアからの発表のあった日の午前中に遡る。

実はレミリアから演奏会の話が出たのは当日の朝のことである。

話をスムーズに進めるため、レミリアはあらかじめ楽器の調達を咲夜に指示していた。

なにしろ、普段使わないようなものばかりだ。 香霖堂にだってあるかどうかも怪しい。

咲夜：（何とかなるでしょう･･･）

そう思いながら咲夜は香霖堂の扉を空けた。

霖之助：「いらっしゃい」

中にはいつものカウンターに、店主の姿があった。

咲夜：「頼んでおいた『アームストロング』は見つかったかしら？」

霖之助：「やぁ、君か･･････。　 　残念ながら、うちに『アームストロング』と言うモノは置いていなくてね。

　腕っぷしが強い者なら君のところに一杯いるだろう？」

ヒュッ

間髪いれず、咲夜のナイフが、霖之助の頬を掠め、後ろの壁に刺さる。

咲夜：「紅魔館は麗しき乙女の園よ、失礼しちゃうわ」

霖之助：「これのどこが、麗しき乙女なんだ。 　大体君だって、『アームストロング』が物ではない事ぐらい知っているんだろう？」

あまりのことに霖之助も声を荒げる。

咲夜：「子供の夢は壊しちゃいけないのよ。 　大人は、子供の夢を守るのが仕事」

霖之助：「まったく･･････、で、今日はその『アームストロング』を催促しに来たのかい？」

咲夜：「今日は、別の依頼。 　ここに書いた楽器を手配して欲しいんだけど、お願いできるかしら？」

霖之助：「楽器って･･････、どうかな、モノによると思うけど。 　何々･･････、こりゃあ一体何をやるつもりなんだい？」

咲夜：「お嬢様の提案でね、演奏会をしたいんですって」

霖之助：「君ん所のお嬢様はどうしてこう、色々と難題を言ってくるかなぁ･･････」

咲夜：「出来ないの？」

霖之助：「まぁ、慌てなさんな。 　オーケストラに使うような楽器から、バンド演奏に使うギターまで色々･･･。

　大型の楽器は搬入に時間が掛かるけど、小型の楽器は何とかなる。

　それにしても、なんだいこの『ドラムセット　個数　あるだけ』って言うのは･･････」

咲夜：「あぁ、それね。　ドラムは妹様の担当なのよ」

霖之助：「･･･、もちろん楽器は全部買い取ってくれるんだろうね」

咲夜：「そんなわけ無いでしょ。 　レンタルにしなさい。　不安なら保険に入っておくことをお勧めするわ」

霖之助：「それは君の台詞じゃないだろう･･････。

　まぁ、いいだろう。　こう言うことは僕も嫌いじゃない。 　香霖堂もこの演奏会をバックアップさせてもらうよ」

咲夜：「ありがとう。　助かるわ」

霖之助：「それで、この紙に書かれた香霖堂の広告掲載というのは本当かい？」

咲夜：「もちろん。　それに広告掲載料なんて頂かないから安心して」

霖之助：「そうか･･･、僕の店が新聞広告に載るのか･･････」

咲夜：「あ、でもお嬢様と新聞記者との交渉次第だけれどね」

霖之助：「まだ、契約していないのかい？」

咲夜：「でも、ほぼ間違いないわ。　何しろお嬢様がその紙に書いたってことは、そうなる運命なんだから」

霖之助：「運命を操作する能力か･･････」

咲夜：「それじゃあ、午後にでも楽器を引き取りに来るから準備をお願いね」

霖之助：「ずいぶん急な話だね」

咲夜：「乗り気なうちに色々用意してあげないと、機嫌損ねちゃうでしょ？」

霖之助：「大人は子供の夢を守るのが仕事か･･････」

咲夜：「そう。　あとは、適当に『アームストロング』を見繕っておいてね」

霖之助：「だから、それは物じゃないんだよ･･････」

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