Scene 3-1 ＜月夜の散歩＞

夜空に大きな月が輝く、そんな夜。 レミリア＝スカーレットは、その夜空を一人飛んでいた。

彼女がその小さな羽をはばたかせる度に、木々はまるで恐れおののく様にその身を揺らし、 こそこそと耳打ちをし合うようにその葉を擦り合せた。

幻想郷のものが等しく抱く彼女への思いは、畏怖。 その種族への畏怖。

そのことを知ってか知らずか、彼女は我が物顔で夜空を舞う。

まるで自分以外のものが全て平伏している世界に居るかのように。

レミリア：「そこに居るんでしょう？　幻想郷の新聞屋さん？」

レミリアは、ふとその場に留まり、深く暗い森の中に向け声をかける。

月光を背に浴びている為、その表情はわからないが、彼女は笑っていた。

少なくとも、その目は笑っていた。

自らの影に隠され、窺い知る事の出来ぬその表情の中で、その目だけは紅く紅く、輝いていた。

しばらくすると木々の陰から一人の天狗少女が現れた。

名を写命丸文という。 幻想郷の新聞記者だと、彼女は言っていた。

文：「いやぁ、見つかってしまいましたか？

　紅魔館の主がこんな夜中に従者も連れず外出とは、何かあると思いまして。 　しばらく後を着けさせてもらいました」

レミリア：「吸血鬼が夜に外出するのは当然よ。 　まぁ、従者が居ないことは確かに珍しいわね。

　咲夜は優秀なメイドだから、いつも離さずに置いているわ」

文：「ではなぜ、今夜はお一人で？」

レミリア：「珍しいことをすれば貴方が来るんじゃないかと思って。

　今夜は、『貴方が私に用事がある』んじゃないわ。 　『私が貴方に用事がある』の」

文：「･･･なるほど。　私は、貴方に乗せられたというわけですか？ 　天狗を騙すとは、些か感心しませんね」

写命丸文は、表情には出していないが、自分が欺かれたことに少々苛立ちを覚えていた。

レミリア：「まぁ、そうカリカリしないことね。 　いつも無断で取材させてあげてるんだから、これくらいはいいでしょう？

　どう？　こんな所で立ち話もなんだし、紅魔館でお茶でも飲みながらお話しましょ？」

文：「いいでしょう。詳しく聞かせてもらいましょうか？」

Scene 3-2 ＜夜の紅魔館 客間＞

夜の紅魔館。 写命丸文はその中の客間に通された。

美しい調度が並べられた客間は、決して煌びやかで豪華というものではなかったが、 落ち着きのある、とてもよいものだと一目でわかるような、そんな感じだった。

文：「この館に、このような部屋があるとは･･････」

レミリア：「あら、うちだってお客様を持て成す部屋ぐらいあるのよ。 普段はお客として値しない者ばかり来るから使っていないだけ」

文：「霊夢さんや、魔理沙さんは？　この部屋に通さないのですか？」

レミリア：「霊夢からうちに来る事はまず無いわね。 　魔理沙は図書館に直行するから、客間に通した事も無いわ。

　それに、貴方は遊びに来た親しい友人を客間に通すかしら？ 　もしあの二人が来る様であれば、私の自室に通すでしょうね。

　まぁ、始めて来た時は客間に通す暇も無かったけれどね･･････」

そう言いながら、懐かしむように口元を緩める。

レミリア：「さて、本題に移りましょうか？ 　今度紅魔館主催で演奏会を開くことにしたの。 　貴方にはその宣伝をお願いするわ。

　その代わり、この演奏会に関る一切の取材を認めてあげる」

文：「演奏会ですか？　それはまた突然どうして？」

レミリア：「あら？　これは取材を受けたことにしてしまって良いの？」

文：「む･･･、むむむ･･････」

文は少し考えた後、ふうと大きく息を吐き後に続ける。

文：「解りました。宣伝活動をお手伝いしましょう。　その代わり･･･」

レミリア：「ええ、もちろん取材は構わないわ。 　演奏会の理由？　なんとなくよ」

文：「は？　何かもっと壮大な理由は無いんですか？ 　紅魔館を広く幻想郷に知らしめるとか」

レミリア：「そんなものは後付けでいいのよ。 　私がやりたいって思ったからやるだけ。

　まぁ、紅魔郷メンバーには 　『幻想郷に紅魔館ありって、周りに再度認識させたい』 　なんてことを言ってあるけどね。

　でも、メンバーの中でも館の者は多分、私の本心に気づいてると思うわ」

文：「はぁ･･･、宣伝活動と引き換えに得た情報がこれですか･･････。 　それでは、メンバーといえば他にはどなたが？」

レミリア：「紅魔館や周辺妖怪だけでは足りないからね。 　今回は各方面に声をかけてメンバーを集めるつもりよ。

　そうだ、貴方何か楽器できる？」

文：「一応、横笛とラッパなら･･････」

レミリア：「じゃあ戦力として入れさせてもらうわ」

文：「私の意思は無視なんですか？」

レミリア：「皆でやれば楽しいわよ？ 　丁度トランペットは、魔理沙ともう一人欲しかったのよね」

文：「魔理沙さんですか･･････、いいでしょう。 　最速の座に続いて、ラッパの腕前でも私が勝つというのも悪くありませんね」

レミリア：「じゃあ、貴方も参加ということで」

レミリアはそう言うと、手元の書類になにやら書き足してそれを文に渡す。

レミリア：「ハイ、暫定のメンバー表と演奏曲目。

　取材は確定したメンバーにならOK.。

　ただし取材の内容はメンバー全員が確定するまで公にしないこと。

　これから交渉する上でこちらの情報が漏れると困るから」

レミリアから手渡されたメンバー表には、新たに自分の名が付け加えられていた。 そして一通り書類に目を通す。

文：「む･･･、取材の件に関しては、なんだか騙されたような気もしますが、いいでしょう。 　このメンバーが確定することを祈ってますよ」

レミリア：「交渉には咲夜に行ってもらうから、咲夜に着いて行けばいいわ。 　ただし、確定するまで交渉相手に気取られないようにすること」

文：「そんな事教えていいんですか？」

レミリア：「黙っていて余計な事されても困るしね。 　それじゃあ、よろしくお願いするわ。

　貴方の楽譜は後で咲夜に持たせるようにするわね」

文：「解りました。　それでは、早速取材に行きますので」

レミリア：「あぁ、家の者はもう休むから取材は明日ね。 　あたし明日早いのよね」

文：「へ？　吸血鬼ともあろう者が、何健康的な生活を送ってるんですか？」

レミリア：「最近の吸血鬼は健康にも気を使うのよ。

　ん〜、フランなら起きてるかもしれないから、そんなに取材したければフランのところに行くといいわ。

　ただし、機嫌を損ねないようにね。　館壊されたら、補修が大変だから」

そう言いレミリアは客間を後にする。

一人残された文は、自分以外誰もいなくなった客間でつぶやく。

文：「やっぱり･･･、騙されたのかしら･･････私･･････」

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